TEXTILE DIVER 布を探しに

布につながるすべての感覚をひろげて 

ザオサパ 山道

行く先も知らないのに、わたしは先頭を歩いている。
時々振り返って後ろを確認。
ビニールのサンダル履きに荷を入れた竹籠を背負って山道を登る彼女たち。
“ホン”と呼ばれる赤いスカーフは、緑のなかできわだって見える。

「歩くの早いわね!何かしているの?」
「ええ、いつも歩いているの探し物をして」

ザオサパ 女の名前

長女ータメイ、 次女ーラメイ、3女ーサメイ、4女ースメイ、5女ーマンメイ、6女ーリュウメイ 
7女ーチェットメイ、8女ーパメイ、9女ーチュアメイ、10女・・・この辺りで曖昧になる。
「またタメイに戻るの」と聞くとちょっと考え込んで、まだ続くと言う。
話してくれたのは、ラメイとスメイとリュウメイ。

これはベトナム ザオサパの女たちの名前で出生順に名前が決まっている。
長男はラオタから始まり、同じように順番で名が付けられる。

どの家に行っても長女はタメイで、タメイが結婚して生まれた長女もタメイで、
タメイの長男ラオタが結婚して生まれた孫も女の子ならタメイになる。

名前は個を示す?だけど出生順で付けられる名前に個は感じられない。
社会の最小単位である家族のなかでの位置と立場を明確にすることの重要性からだろうか?
それとも単純に子供が多いのでこうなったのか。
すべての名前は○+メイから成っていて、一郎、次郎、三郎・・・と同じようなものかもしれない。
でもそれなら、10女以降もただ数字を組み合わせればよいだけで、何も考え込むことはない。

「今でこそ10人以上の兄妹は少なくなったけど、まだまだ6~7人はあたり前」

バリ人も同じように出生順に名前が決まっている。
インドネシアのほかの島はどうだろう?
インドシナのほかの民族はどうだろう?
名前っていったいなんでしょう。


旅をする裸の眼 

「旅をする裸の眼」 多和田葉子


サイゴンーベルリンーボーフムーパリ
言葉の違う国を越境し、そして見るということ。
旅=移動、眼=視線 言葉=思考



言葉が通じないもどかしさと、
言葉が聞こえてこない安らぎ。
眼の前の出来事は解釈を履き違え、
光・風・水・・・布の感触、皮膚に残る記憶だけが最後にとどまる。

ザオサパ 背中の刺繍 「ルイタアン」

ルイタアンと呼ばれる背中の刺繍。

ドレスの裾の刺繍はルイキアと言われ、襟、袖口など他の刺繍部分にもそれぞれ名称があるそう。

名前が付けられているということは区別されているわけで、もちろん各部分ごと刺繍の模様も形状も違います。

“刺繍”とひとまとめにしてはいけない深いわけがある。



    



                        座って居眠りしているのはスメイかしら?

ザオサパ ウエディングベール

ティモール テキスタイル コラムのページでもご紹介したザオのウエディングベール、
その中身は?

この木製の帽子が土台になっています。これを「ゴニョ」と言う。

こうして頭に被り、

シルバーのコインや房飾りの付いた赤い布「ホン」を幾重にも掛け、


最後に渋い配色の繊細な刺繍布「パー」を被せます。完成。

着装の時に額と耳の上の髪を抜き、残りの髪は蜜蝋で固めて木の帽子と一体化させるそう。
儀式の続く数日間は取りはずし不可能で、
こうした緊張感やある種の肉体的苦痛をともなう装いにより、
非日常的な時間を経験し、今までの環境から新しい家族のなかに移行してゆくのです。
娘から妻へとなってゆくのね。
美しさを誇るだけではなく、決意のときなのです。

今回の撮影にご協力いただいた頭モデルはこの方です。
ティモール島から参上。


ザオサパ 立っても座っても刺繍

ザオサパの女たちはいつでもどこでも刺繍にいそしむ。

町にいても、村にいても、立っていても、座っていても、

とにかく刺す刺す刺す。

ジャケットの襟に袖口に背中に裾、帽子やベルトやパンツ・・・

いったい、何が彼女たちをここまでさせるのか?

この過剰さ、一緒にいてかなり心地よい。













刺繍に燃える女たち、昔は地の布も自分たちで織っていたそうだが、

今ではザエ、タイ、黒モンの人たちや、町で既製の白布を購入し藍に染め刺繍をするという。

「刺繍をするのに忙しくて時間がないのよねぇ~」



ザオサパ 既婚のしるし

既婚のしるしとして、眉と額から耳にかけて一部の髪を抜くザオサパの女たち。

見かけはちょっとビビッてしまうけど、仲良くなると飲む食う歌うの大騒ぎ。

このスタイルは、剃るのではなく全部“抜く”そうで、目安としては月に一回ですって。

近頃では伝統も緩和され、嫌なら無理に抜かなくてもいいようです。

でも、ビシッと手入れしているお母さんたちはやっぱりかっこいい。

わたしも、自分ひとりの伝統を確立しなくては。ひとり民族。





   

布に染みる音楽 3

キース ジャレット「祈り~グルジェフの世界」は市松模様の布

グレゴリオ聖歌のジャケットは布が歩いているかのような修道僧



どちらも祈り、そして布。

そういえば「布教」のフの字は布・・・。祈りと布の関係。







札幌 布パワー

札幌のoteshio(おてしお)さんで開催中の「nunoteshio(ぬのてしお)展vol.3」



入り口の扉が開くたびに胸はドキドキ、

だってみなさんすごい布を巻いていらっしゃるんだもの。

まるで歩くテキスタイルミュージアムを訪れているような感動です。

そしてそのセンスバツグンのコーディネート、

ベージュのジャケットにスマトラ島の青いバタックの布

白と黒の柔らかいシルエットのブラウスにティモール島タシフェトの黒い布

貝紫の江戸小紋の羽織にティモール島オエクシの鰐文の布

上質な木綿の藍のコートドレスにミャンマーのカチンの布

全部を書きつくせないのが本当に残念です。

そして写真もすっかり撮り忘れています。



現代と伝統、新しいモノと古いモノ、場所も時間も違うモノがヒトの上で交差し混じり会う。

みなさん、軽く時空を越えています。

だから布遊びはやめられません。

16日(土)までです。





2010.10.8(fry)~16(sat)pm1:00~7:00(期間中無休)

札幌市中央区南1条西6丁目 第2三谷ビル3階

oteshio(おてしお)

nunoteshio(ぬのてしお)

明日から札幌のoteshioさんでnunoteshio(ぬのてしお)展が始まります。

今回の布はインドネシアのティモール島、ラオスのサムヌア地方、そして太平洋を越え

ペルーのケチュア族とボリビアのアイマラ族の布が初登場です。

10月8日はoteshioさんにおりますので、テキスタイルダイブにどうぞいらしてくださいね。

とっても楽しみにしています。



nunoteshio展 vol.3

2010.10.8(fry)~16(sat)pm1:00~7:00(期間中無休)

札幌市中央区南1条西6丁目 第2三谷ビル3階

oteshio(おてしお)



バッチリ布を巻いてゆきますよ。