TEXTILE DIVER 布を探しに

布につながるすべての感覚をひろげて 

「Mother of all Ages 」   Anne Williams 1989

時間そのもののように年老いた女性

時間そのもののように年老いた女性

その胸に記憶はたたみ込まれ

体には星の種が埋め込まれている

いのちの網は繕われるべきだ 

  クモ女は泣いている

私たち一人ひとりが紡ぎ手だ

  記憶をたどって光り輝く





-----アン・ウイリアムズ作(パレンケ、メキシコ)







女神のこころより P34

ハリー・オースティン・イーグルハート

現代思潮新社

「ヌノのシンメトリー」を終えて

「ヌノのシンメトリー」2011年3月24日(木)~29日(火)終了いたしました。



初めてこの場所で出会われた方が、

「ステキですね!」「ネ!」「これは刺繍でしょうかね?」「いいえ、すべて織りですよ」「ヘェー」

布をたたみ直しながら、背中から聞こえてくるそんな言葉に耳を澄ましニッコリ。

一枚一枚の布を静に開いては閉じられる、そんな方の仕草にお茶を入れる手を止めてニッコリ。



若い方、ご年配の方、男性に女性、そしてさまざまな背景をお持ちの方々が布を囲んで時間と場所を共有されニッコリ。

そんな場所に居させて貰えること本当に幸せです。いつまでもどんなときにでもそう出来ますように。

どうもありがとうございました。

「ヌノのシンメトリー」 かきがらの庭

明日から 「ヌノのシンメトリー」 を開催いたします。

期間中は在廊しております。

2011年3月24日(木)~29日(火)11:00~19:00(最終日は17:00まで)



ギャラリー かきがらの庭

東京都中央区日本橋蛎殻町2-11-8

半蔵門線「水天宮駅」出口4より徒歩3分、日比谷線「人形町駅」より徒歩10分



http://www.nunona.com

メールinfo@nunona.com



布の繕い

展示会の布の準備のために、毎日布の部屋で時間を過ごす。

もう何度も展示会を経験した布は、そのたびに輝いてゆくよう。



細長いスレンダー(肩掛け)はティモール島のヌンコロ地方の布で、

ごあごあの手紡ぎ木綿に、けして上手とはいえない幾何学模様が縫取織の技法で経縞の間に織り込まれている。

そしてどうしたらこんな頑丈に腰機で織られた布に?と不思議に思うほどの大きな穴があいている。

なんとも緩むような愛嬌とそれでいて強靭さを思わせる布は、太陽と大地にその身を晒して仕事をする人と共にあったのだろう。

そんな布を今布部屋で手元にしている。



小さな傷であればタテとヨコに糸を入れればすむが、こんな大きな穴ではそうはいかない。

この穴を繕うための協力者を探さなくては。

その役目を申し出てくれたのはスマトラ島のミナンカバウの端裂で、細い糸の繊細な織りは藍に白の格子が入り、

もう手をかけてあげることが出来ないほどボロボロになった小さな姿には、老いて端裂になってもなお洗練された上品さがあった。



「あなたのような華奢な布はどのような暮らしをされていたのですか?」とティモールの布が問えば、

「あなたのような純朴な布はどのような島でどのような方と暮らしていたのですか?」とスマトラの布は問い返す。

そんな問答が聞こえてきそう。



布を、糸と針の力をかりて繕う。

ツクロウヌノとツクロワレルヌノでツクラレル。











祈りの糸

紡錘を親指と人差し指で軽く支える。

大地に立つ紡錘の重さは地球の中心に向ってまっすぐに繋がっている。それはどの場所からでも。

紡錘を親指と人差し指で軽く回す。

回転から生まれた糸は螺旋を描きそれは無限の宇宙へと繋がってゆく。それはどの場所からでも。

地球の中心と無限の宇宙を繋ぐ長い糸。

祈りの一杯つまった長い糸、祈りの一杯つまった長い糸。



宛名書き

展示会のご案内葉書の宛名書き。

左手側に住所帳をひろげ、右手側に葉書を写真面を上にして10枚を一単位として交互に積み上げ50枚の山を作る。

そこから10枚の単位を分け取り、一枚一枚を手元に置いて宛名面に反して書いてゆく。

旅でも愛用の携帯時計は住所帳の上のほうに置いて、宛名を書き終わった葉書はその下に宛名面を上にして積んでゆく。

書き始めは、1時間で80枚、1枚45秒のペースで進み、50枚をひとサイクルとして書き終えると、

背伸びをしたり、からだを捻ったり、首や腕を回して次の50枚の山を作り再び宛名書きをつづける。

100枚終えたところで休憩。

大切な住所はA4のノートに書き込んでいるので、宛名ラベルに印刷というわけにはいかない。

ソフトを買って、打ち込んで・・・とも考えたことはあるのだが慣れない作業を考えると気が重い。

それに詳しくはないけれど、ソフトには決められた形式がありそれに沿うように住所などを打ち込み、それに沿った宛名ラベルしか出来ない。

形式に合わない住所や名前などはないのだろうか?

そこで、勝手な公式を考えてみる。

住所帳は住所を書き加えてゆけばよく、葉書を出すときにはペンが一本あれば済む。

宛名ソフトだと住所を打ち込めばよく、葉書を出すときにはパソコン、プリンター、宛名ラベル、インクがなくては済まない。



公式1

(住所帳)+(ペン)=宛名

とても単純で簡単。

公式2

(宛名ソフト)+(パソコン)+(プリンター)+(宛名ラベル)+(インク)=宛名

多くの要素を必要としこれはなかなか難しい。



もうひとつの公式は時間。

手書きだと1時間で80枚、2時間で160枚、3時間で240枚、

もちろん人間の仕事はこんな単純には進まなく、2時間目はペースが落ち、3時間目はもっと落ちる。

それでもいままでの経験から3時間で200枚は書くことが出来る。

そして宛名ソフトの場合ではパソコンとプリンターはあるとして、宛名ラベルとインクは買い足さなければならない。

ここから一番近い所まで最短でも往復1時間、店に入り品物を選んで購入して何だかんだで30分、

帰ってきてお茶を飲んでちょっと休憩して30分、これですでに2時間経過している。

160枚の宛名書きが出来る同じ2時間の間に、なんだかずいぶん動き周らなくてはならず、

そのあと印刷して、シールを貼ってと使用する道具が多いだけ作業も多い。



もちろん何千枚、何万枚の葉書きを出さなくてはならない規模になるとこの公式は使えない、

それはひとりの仕事の域を超えているから。

わたしの布の仕事を考えると、何千枚単位の葉書の宛名書きをしなくてはならなくなる可能性はゼロに等しいし、

午前中に3時間、午後に3時間で2日あれば切手貼りまで充分に終えられる。

そして等身大の仕事の仕方がひとつの指数にもなっているから。



布の手入れをしている時と似た性質の時間が宛名書きにはある。

名前を見て、顔が浮かんで、お元気かしらと思いながら、ただただ文字を写してゆくことに専念する。

写しているのは住所と名前だけど、なんだか写経という言葉が頭を霞める。



と、手で書くことを自分自身に納得させながら書いているのですけど。



















白黒写真

以前のこと、現地で撮影した白黒写真で展示会のご案内葉書を作成したとき、どちらかでその葉書を手にして来て下った方が、

「この写真は何の資料からとられたのですか?」と訪ねられた。「現地で自分で撮影したものです」

あちらもこちらもそれ以上その件に関しては話さなかった。

多分カラー写真であればそんなふうな考えはなかっただろう。

古い書物や文献に過去の記録として載っている歴史的な資料写真と思われたのか、と勝手な想像をしそれならそれで嬉しいことでもある。



確かに、白黒写真には時間の枠を簡単にはずしてしまう要素がある。それは現実には人の目に映る“色”がそこにはないから。

世界は色で溢れ、色は一番最初に認識され、記憶される。

だとすると、色のない白黒写真は現実ではないものを、そこに写し込んでいることになる。



また、別のときに「どうして布なのに色をとらないのですか?」

もちろん旅のときは、コンパクトなデジタルカメラを必ず携帯している。

でもやはり欲望をそそるのは白黒写真で、帰国してフィルムを現像し印画紙に焼き付けられた画像は、初めて目にするような興奮と驚きと感動がある。

現地に立っているわたしは色の世界を見ている。白黒写真はその色の魔力を解き放ち、別のものを浮き上がらせる。

光・影・シルエット・・・、現地では見えなかった何かを徹底的に探し出す作業をここで繰り返す。

何かとは何か?それは多分どんなモノにも場所にもある“影”の部分を引き出す糸口になるものを。













「ヌノのシンメトリー」

「ヌノのシンメトリー」

2011年3月24日(木)~29日(火)11:00~19:00(最終日は17:00まで)



ギャラリー かきがらの庭

東京都中央区日本橋蛎殻町2-11-8

半蔵門線「水天宮駅」出口4より徒歩3分、日比谷線「人形町駅」より徒歩10分



ひとつの形が一定のリズムで並ぶと、そこにはパターンが現れます。

シンメトリーは安定を生みだし、殖えつづける形は力を放ち出すようです。

布のなかのシンメトリーな物語。

※インドネシアの島々の布を中心に展示・即売いたします。どうぞご覧下さい。     

ティモール テキスタイル 岡崎真奈美

http://www.nunona.com

メールinfo@nunona.com









日本橋のはずれ蛎殻町(かきがらちょう)にひっそりと佇む日本家屋。

小さな木戸の玄関をくぐると、そこはビルの谷間の別世界。

四季折々の表情をみせてくれる小さなお庭と、そのお庭に面したギャラリーが

「ギャラリー かきがらの庭」です」







みなさまのお越しを心よりお待ちいたします。