TEXTILE DIVER 布を探しに

布につながるすべての感覚をひろげて 

大野一雄 様



あなたは、みえない糸を紡いでいたのですね。











大野一雄

稽古の言葉  P93より

フィルムアート社



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Kazuo Ohno Dance Studio News 0134より   http://www.kazuoohnodancestudio.com/

◎ Antony and the Ohnos

2010年2月、草月ホールで行われた「Antony and the Ohnos」が、ロンドンのサウスバンクセンターで開催するメルトダウン・フェスティバルで再演されます。

今年のメルトダウン・フェスティバルのディレクターを務めるアントニーの招きで実現しました。

大野一雄の生前、最後に行われた記念すべき公演の再演ですが、新たな気持ちで取り組めるよう、アントニーとも話し合っています。どうぞご期待下さい。



出演 大野慶人 アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ ウィリアム・バシンスキー ジョアンナ・コンスタンティン

映像 大野一雄 「O氏の死者の書」(1972 長野千秋監督)

日時 2012年8月5日(日)

会場 Queen Elizabeth Hall, Southbank Center, London

主催 Meltdown Festival



Meltdown Festival

メルトダウン・フェスティバルは、1993年より、その時々の旬の音楽家を毎回ゲスト・ディレクターに迎え、

イギリス最大のアートセンター、サウスバンクセンターで開催してきた。

歴代ディレクターには、ジョン・ピール、マッシブ・アタック、デビット・ボウイ、パティ・スミス、オーネット・コールマン等が名を連ねる。

伝説のアーティストが自ら最愛のアーティストを迎えて開催する、伝説が伝説を紡ぐ音楽フェスティバルであり、

本年のディレクターにはアントニーが就任している。



詳細は

http://meltdown.southbankcentre.co.uk/2012/events/antony-and-the-ohnos-a-celebration-of-yoshito-and-kazuo-ohno/

布を纏う

◎一枚の布は、

木綿を紡いで糸にすることからはじまります。

永遠に紡ぎ終わることなどないかのようにつづく糸紡ぎ、

紡錘を回転させて糸を引く手が顔の前でひらひらと舞い、

それは巫女が、神の所在を尋ね歩く巫女舞いのよう・・・。



◎紡ぎ終わった糸は、

祖先をあらわす人型や太陽を呼ぶニワトリやワニの神様、

触手を伸ばし燃え広がる炎のような幾何学模様が糸を糸で括って模様を染める絣の技法で描かれ,

ティモールのアトニ人が見ている世界が糸のなかに結びつけられます。



◎模様の描かれた糸は腰機に掛けられます。

腰機は織手の身体や感情の動きを、その布に費やしたすべての時間をそのまま布に映しこんでゆきます。



裸足の足で大地に座り込み布の仕事をしている人々が、いまここと同じ時間にティモールにいます。

日本とはまるっきり違う風景のなかで生活し、日本とはまるっきり違う時計を持って布を織り上げる。



歴史的時間をかけられて伝えられる布の文様や織りの技法、布を織る織手の時間、そしてその布を与えられた人が布と過ごす纏いの時間、

一枚の布にはさまざまな時間が錯綜しています。



タイムマシーンは持っていないから、過去や未来には行けないし、

変身することもできないから、植物や動物の時間を知ることもできないけど、





ティモールの布や、ここではない時間と場所で生まれた布を纏うことはその錯綜した時間を纏うことになるのかも・・・。

「今」でしかないわたしは、「今」ではない時間で織られた布を纏うことで、自分の時間を手に入れるきっかけを得られているように思えます。



乾いた大地のようにざらついたティモールの木綿布を纏うとき、なんだか身体の中心にしっかりと杭を打ち込んだような安定感があらわれます。

布を纏い、自分の所在を尋ね歩く・・・。









Self-Portrait 1922 (cat.23)

Paul Klee

Hand Puppets P80



HATJE

CANTZ















布と人

紡錘のその先端は点、その先端の点から糸=線が紡がれ伸びてゆく。
その糸=線を機に掛け織ると、糸=線は布という面になって拡がってゆく。
その布=面を人が纏うと、布=面は人とともに立ち上がってくる。

布=人      そして 踊る
これは 今
       
                その先は?




WOMEN HOLDING EACH OTHER,1989
JOYCE TENNESON
Transformations

TREVILLE

紅型 BINGATA

紅型 BINGATA 沖縄復帰40周年記念

琉球王朝の色とかたち



6月13日(水)~7月22日(日)サントリー美術館

六本木・東京ミッドタウン ガレリア3階

休館日=毎週火曜日 開館時間=10時~18時



ティモールの機舟

ティモール島の、機を織るようすはまるで舟を漕いでいるかのようです。



大地に敷いた椰子の茣蓙の上に足を投げ出し座り込み、機に掛かるたて糸のその一方を地面に打ち込んだ棒や家の柱に括りつけ、

もう一方は織手の腰に回した腰帯で引っ張ります。



膝を軽く曲げ、上半身を前傾させたて糸の張力を緩めよこ糸をとおす。

今度は膝を伸ばし、上半身を起こしてたて糸を張り刀杼を入れて打つ。

一連の動作はしなやかに繰り返され、一人乗りの小さな舟で櫂を漕ぎ海原をぐんぐん進んでゆくよう。



腰機や原始機のように、人と機が一体化してどこまでが人の役目でどこからが機の機能なのか、その成りかたがあいまいであればあるほど、

機は容易に舟に変身し、機舟はいつでも出港することができます。



櫂をひと漕ぎすると舟は水のなかを、刀杼をひと打ちすると糸は布のなかを、

どちらも戻ることの出来ない、どこに辿り着くのかわからない旅に向かって、水の、糸の流れに任せて前へ前へと進んでゆきます。





山に暮らすアトニ人は海を畏れます。

でも、機舟なら安心。

四角い大地はいつしか揺れる海になり、小さな機舟に乗り込んだ織手は日常のざわめきに惑わされることなく、

悠々とひとり世界に向かって漕ぎ出してゆきます。



















秘密の隠し場所

結った髪を針山代わりに針を刺し、刺しゅうをしている姿を中国で目にしたとき、

長い髪には装飾の美しさだけではなく画期的と思えるような使い道もあるのだと興味をかきたてられます。

そして、ティモールの女たちの髪のエピソードを思い出したのです。



ティモールの人々は、メラネシア系民族の特徴である縮れた髪をしています。

女たちはその縮れた髪を頭の後ろで丸くまとめ、水牛の角を削り出した櫛を挿すのが伝統的なヘアースタイル。

ところがここ2、3年、直毛のヘアースタイルがティモールで流行り出し、

わたしの知り合いの女性たちもまとめていた縮れた髪を伸ばして切りそろえ、肩の長さに垂らすようになりました。

髪をまっすぐにする特殊な薬品が島に入ってきたことで人々の憧れだった直毛が可能になり、この流行に火をつけたのでしょう。



まっすぐな髪ならばカールや縮れさせたくなり、縮れた髪ならばまっすぐにしたくなり、ないものが良く見え憧れるのはどこの国でも同じこと。

それが似合っているか似合っていないか?これはまた別の問題。





ティモールの女たちは結った縮れた髪のなかにお金を隠していました。

買い物をしたり、バスの料金を払うとき、結った縮れた髪のなかに指を入れてお金を取り出し、受け取ったおつりをまた結った縮れた髪のなかに戻す。

「落としたり忘れたりしない」と尋ねると、「ここが一番安全だよ」

髪のウェーブはお金をすっぽりと隠し、落ちないようにガードします。





もちろんみんながみんなそうしているわけではないのですが、これは縮れた髪を結っているからこそできること。

髪がお財布になったり、大切なモノを隠す秘密の場所にもなるなんて。



髪が自然に伸びるように、髪のなかに入れたお金も自然に増えるといいのにネ。そんな願いももしかしてあるのでしょうか(笑)











Manami Okazaki