TEXTILE DIVER 布を探しに

布につながるすべての感覚をひろげて 

トロピカルテキスタイル 終了しました。

今回のトロピカルテキスタイルDMに使用したピンクの鮮やかな写真は、インドネシア スラウェシ島中部スラウェシの女性用腰衣で、この腰衣は樹皮布から作られている。展示会ではこのほかに紋様が描かれたシガと呼ばれる儀礼のための男性用頭巾、儀礼用飾り布、またなめした皮のようにしなやかなで美しい3メートル近くある茶色の筒型女性用腰衣、そして現在もかろうじて受け継がれてる新しい樹皮布などを展示した。

中部スラウェシの樹皮布文化の面白さをご紹介と張り切っての展示会が、樹皮布のことを知れば知るほど、調べれば調べるほど、語れば語るほど大変なものに手を付けてしまったと、ひとりブクブク溺れ始める。

樹皮布とは字のごとく樹の皮の布で、ようは布でもあり、樹でもあり、紙でもある。そしてこのように原始的なモノの起源はいまでも樹皮布作りの盛んなアフリカかオセアニアとの勝手な思い込みも、それは紙文化と同じ中国が発祥でオーストロネシア語族によって西は台湾を抜けてマダガスカルからアフリカへ、東は太平洋の島々に拡散されたと知り動揺する。

紙以前、そして布以前。タテヨコに交差する木綿の織物さえままならないのに、樹皮布/樹皮紙は着地する場所をすっかり失った浮遊展示会になってしまった。

ご来場くださった方々からはいろいろなことを教わり、またエスノースギャラリーの皆さんにはとてもお世話になりました。

これからもひたすら布の道、楽しみながら励みます。布・道・楽。











トロピカルテキスタイル ~ザ・エスノース・ギャラリー~はじまります

島嶼アジア 布のそら音 はじまります。

2015年11月17日(火)~29日(日)

11:00~19:00(岡崎真奈美 13:30~18:30在店)



布を啄ばむ鳥

かなり茶色っぽい感じでお待ちしております。樹皮布ですので。



ザ・エスノース・ギャラリー 2F

東京都台東区谷中3-13-6

Tel:03-5834-2583 Fax:03-5834-2588



木槌、石槌、紡錘

谷中のザ・エスノース・ギャラリーさんで明後日から始まる、トロピカルテキスタイル ~島嶼アジア布のそら音~。

明日搬入とディスプレーだというのに、準備をしながら手が止まる。

向かって右から西ティモールの紡錘・イケ 、真ん中は中央スラウェシの石槌・イケ、左は西スンバ コディで見つけた木槌(現地の呼び名を聞き忘れた)。西スンバでも古くは樹皮布が作製されていたようで、以前男性用の頭布を入手したことがある。

叩く、打つ、回す。



西ティモールのイケには顔が彫られている。なんてチャーミングなイケ。こんな器量好し、嫁には出したくないのが本音。でも本人の幸せのためには・・・セツナイ。



中央スラゥエシの石槌 「イケ」

樹皮布はインドネシア、ポリネシア、東南アジア、中南米、アフリカの各地で製作され、原料はカジノキ、パンノキ、ベンガラぼたいじゅなどのクワ科の内皮を使用している。

中央スラウェシでは内皮を叩いて伸ばす道具を現地の言葉で"イケ"と呼び、この呼称は樹皮布製作の盛んなポリネシア語に由来する。

中央スラウェシでは木槌の"イケ"と石を籐で巻いて持ち手にした何種類かの石槌の"イケ"が使用されている。

木槌のイケは製作過程の最初の工程で使われ、次の段階からは3種類以上ある石槌のイケが用いられる。粗い溝入りの重い石槌イケから繊細な表面のイケへと持ち替えられ作業が進行する。

樹皮布製作の行われているほとんどの地域では木槌が用いられ、中央スラウェシのような石槌はマレーシア、フィルピン、中南米で先史時代のものが発見されているという。

写真のイケはグンバサのパンデレ村で見せてもらったもの。持ち手にはゴムチュウブが巻かれプラスチックの紐で補強され、そんな異物と融合された石は、いまも仕事をしている。





参考文献

布と儀礼 ーインドネシアの精神世界ー

第4章 タパ文化の変容ー 中部スラウェシにおける樹皮布の製作ー

太田晶子

光琳社出版 1997年

Barkcloth Production in Central Sulawesi ~ LORRAINE V.ARAGON~



20世紀初期 樹皮布を装うクラウィの女性。彼女のブラウスは煌めく雲母粉で装飾されてる。

Barkcloth Production in Central Sulawesi

A Vanishing Textile Technology in Outer Island Indonesia

University Museum Magazine of Archelogy and Anthropology,

University of Pennsylvania, Vol.32, No.1,1990

LORRAINE V. ARAGON

写真:Courtesy Department of Library Services. American Museum of Natural History

Photo by H.C.Raven

スラゥエシの樹皮布 "フヤ"または"イフォ"



中央スラゥエシに暮らすカイリ、クラウィ、バダ、トバクなどの先住民族は樹皮布文化を保持してきた。樹皮布は日常着でもあり、また慣行の儀礼用衣装、そして貴族を包む経帷子として外からの新しい工業生産の布が入ってくる以前までは彼らの共同体で機能し、それらの樹皮布はその形状と用途で呼び分けられている。

ハリリ(haliliまたはuma)とは樹皮布で作ったブラウス型の女性の衣装、トピ(topi)は樹皮布のスカートで幅広の大きな筒型状の樹皮布を2段または3段に畳んで重ねたギャザースカートのような形状で、古い写真に見るハリリとトピを装う姿はまるで晩餐会に向かう優雅な貴婦人のよう。

中央スラウェシの南に位置する南スラゥエシのトラジャ人は織物で有名だが、同じスラゥエシ島内で隣接する地域に住んでいながらなぜカイリ人とその周辺の先住民族は織布文化へと移行しなかったのだろう。







スラゥエシ樹皮布作り~ クンバサ パンデレ村~

中部スラウェシ州の州都パルの町から南に約35キロ、クンバサ地方のパンデレ村を訪れる。村で樹皮布を作る女性を尋ね歩くと「ほら、音が聞こえてくるよ」と教えてくれる。音の鳴る方に歩いて行くと家の前に設置した作業場で老女が樹皮布を打っていた。

「トキ、トキ、トキ、こうして樹皮布を打つんだよ、心を込め丁寧にそしてリズミカルに。そうしないといいイフォ(樹皮布)はできないのさ。トキトキトキ」

老女の口から溢れる、"トキ、トキ、トキ"の言葉が耳のうちで響く。"トキ"とはどうやら現地の言葉で"ノックするというようなことを意味しているよう。樹皮を打つ、叩くではなくてノックする。どこをどんなふうにして欲しいのか、樹皮との意思の疎通を図りながら一緒に作業を進めていくよう。

トキ、トキ、トキ、ノック、ノック、ノック。家の裏からも同じ音が聴こえてくる。誰かが樹皮に話しかけている。

スラゥエシの地図

スラゥエシの地図を広げる。なんて不思議な形をしているのだろう。人型モチーフ好きの私にはまるで頭から長い触覚を伸ばして海を、世界を弄りながら東に向かって歩いて旅しているそんな人のイメージが浮かぶ。



樹皮布文化を継承するカイリ人と他のわずかな民族は中部スラウェシ州に暮らしている。中部スラウェシ州はヒョロヒョロと伸びる頭の途中までと左肩(西側)から胸、さらに右手(東側)部分で、丁度この胸の内陸部のみで樹皮布文化を見ることができる。

首に当たる部分には赤道が走り、島の位置や形の奇妙さ、そして先住民族と外来民族との接触や島外との交易などの歴史的な背景が錯綜し、スラウェシは多様な文化と風土を孕んでいる。