TEXTILE DIVER 布を探しに

布につながるすべての感覚をひろげて 

台江苗族のジャケット

貴州省台江苗族のジャケット。ダブルツイストノットステッチ、中国語では打刺繍と呼ばれる技法で襟、肩、袖と見事に飾られている。グルグルとコイル状に巻かれた糸のラインのなかには何千何万の小さな円状の糸粒が蠢く布は今ではすっかり藍黒に染められている。以前はどれほど美しい色糸の配色で刺繍されていたのだろうか。

なぜ一色に染めたのだろう。長年着用して古くなり汚れてしまったからだろうか。でもきっとそれだけではないという思いがありいつもモヤモヤしていた。現地で尋ねてみても「古い」とか「年寄り」とかそんな言葉しか返ってこない。

2013年12月15~2014年2月9日間に香港大学美術博物館で開催された展示会図録を入手した。そのなかに台江苗族の染め替えられたジャケットが載っているのを見つけたときはどうしようもなく嬉しかった。説明には「この人々は50歳を過ぎると鮮やかな色を着用して若い娘と競うことを好まない」。

布は、刺繍は年月とともに擦れ破れ汚れ古くなっていく。そしてその刺して着ていた当人も布と同じように当然老いているだろう。布の擦れて破れたところを修理しながら、また老いていく自分を整えながら。

一目ひとめ思いこ込めて刺した美しい色の刺繍を藍黒に染めなければならない日が訪れた時、女性の心はどのように揺れ動くのだろう。今までの色とともに今までの自分も消し去り、人生の次の段階に入って行く。

「こぎんでは藍で染められた布をコロシデというのだよ」和布に詳しい方に教わった。

一色で染め替えられていても、光のなかではその下に隠された色が黒を藍を通して現れる。真新しい布をただ染めただけでは決して真似できない艶っぽさがチラチラしている。

「コロシデ」の響きも何かが隠れている。









星の王子さま ~サンテグジュペリ~

本日2月14日、ついついチョコレートを買ってしまった。だってそのチョコレートのパッケージは「星の王子さま」だったから。布を探して歩くのが仕事なので、移動、異文化、異質なモノなどを題材とした本には必然的に興味が惹かれる。「星の王子さま」も本棚のなかの大切な一冊。

チョコーレートのパッケージはしばらく手にしていなかった本へと気持ちを誘導した。この本のなかにいま必要なことのヒントが隠れているのかも。一つひとつ起こるちっちゃなモノゴトをバラバラに放置するのではなく、なにかの兆候として捉え結び付けて考えるのは面白い。夜空の星と星を線で繋いで正座を見つけるように。もし形が生まれなければ、それはつなぎ方を間違えただけ。また翌日夜空を見上げて最初から始めればいい。

「ものは心で見る。肝心なことは目では見えない」人ではなくてキツネが星の王子さまに教えてくれた秘密。

そうそう、布は心で見る。肝心なことは目では見えない。織る彼女の甘い心、苦い心。愛さないと見えてこないもの。





星の王子さま

サンテグジュペリ 池澤夏樹・新訳

集英社文庫

ご馳走様。

ご馳走様でした。それではお先に失礼いたします。皆さんどうぞごゆっくりお召し上がり下さい。

ご一緒させていただきありがとうございます。

another Blue 魅惑の藍にー色を積む ~ギャラリー集~

2016.2.20(土)ー2.28(日) am11:00-pm6:00



アトリエ ギャラリー 集

高砂市米田町米田40-5 KITANO-HOUSE E号

TEL 090-1480-4270



2/20(土)・21(日) 岡崎真奈美 ティモール テキスタイル 在廊



DMようの布を年明けにお送りして、ギャラリー集さんがコーディネートして撮影された。

彼女の布捌きは唸る。わたしができるのはせいぜい布の解説ぐらい。

ショール:ミャンマー チン族

インナーに使われている布: ティモール島 アトニ人

スカート: ラオス タイデン

ベルト: ミャンマー チン族

バック布 上: ロンボク島

バック布 下: 中国 広西チワン族自治区 チワン族



この写真、上記のオリジナルの人々に見せたくなる。みんなすごく驚き喜びそう。

何たって布を持つ人々はみんな布好きだから。

ギャラリー集さんの展示会、なに着てこう。 DM写真に勝るアイディアを練らなくては。

青空の下での会食 「ドレスコードはプリーツスカート」

中国のバスターミナルから発車されるバスは正確な時刻表で運行されているので、移動や日帰りなどの計画が立てやすい。

この日は馬関08:30発-猛洞行きのバスに乗車する。

猛洞は雲南省南部のベトナムとの国境に接する町でミャオ族が多く暮らしている。市の立つ農歴の猪と巳の日にはベトナム側からも人々が集まるという。出発前、バスの運転手に市のことを尋ねると彼は少し考えてから「今日は狗だから市は明日」。もちろんこれらの会話は筆談で行われる。

馬関から猛洞までは約3時間。ところが直行便と一方的に思い込んでいたバスは経由便で、それは見ればバスのフロントガラスに表示されていた。予定通りにいかないのは旅をしているとよくあることで、立ち寄るつもりのない町での一時間の停車。ひょんなギフトをもらったと 、与えられた状況を楽しむことには磨きはかかっているつもり。

バスが停車したのは市場の近くで賑わいがある。カメラを下げて歩き回り写真を撮るわたしをバスの運転手は面白そうに眺めていた。

目的の猛洞に到着したのは12:30。馬関からのバスは朝と夜の2便で、途中すれ違うバスもなかったので着たバスに乗らないと帰れなくなる。何時にここを出発するのかと尋ねると1時と言う。4時間掛けて来た猛洞に30分間の滞在。市のない町はひっそりとし、さらっと一回りするとすでに時間で慌ててバスに戻ると運転手はまだ大丈夫だからもう一周してこいと大きく手を振る。誰かを、荷物を待たなくてはならないのか、それとも乗ってきたバスで帰らなくてはならないわたしを不憫に思ったのか出発は延長された。そしてそれから30分、バスのクラクションが町に響き渡る。出発の合図にバスを目指し走るわたしをバスは迎えに来てくれ、開いたままの扉から飛び乗る。

帰りは来た時よりもガラガラで乗客は3人だけ。途中バスの中から、青空の下での テーブルを囲んでいる女性たちの姿が目に入る。「ドレスコードはプリーツスカート」と心の中で思っているとタイミングよくバスが止まり扉が開く「行ってこい」。

その後も何度かバスは止められた。市が見れなくても、猛洞に一時間しか滞在できなくても、運転手からの予期しないギフトは何よりも嬉しい。多分ひとりの只々好奇心からのちっちゃなわたしの冒険を面白く思い応援してくれたのだろう。それは国も言葉も名前も関係ない、個の気持ちとして。

最後にバスが止められた時、使用済みのバスチケットの裏に「越南・・・・」と書いた紙を渡された。

指差された左手彼方の峰々、そこはベトナム。そのあとバスは経由地には止まらずにまっすぐ馬関を目指した。

待つ時間

お待たせいたしました。この言葉、もし待っていてくれる方がいたとしたらなのですけど。

一昨日無事成田空港に着陸、年明け第一弾25日間の布旅。中国からラオスに入り、ベトナム経由で帰国。旅もそろそろ終盤という頃に調子が出てくる。体と脳が温まるのに時間がかかり過ぎ。



多分、短期間ならそれなりにさっさとトップギアに入れて仕事をするだろう。そして長期間ならそれはゆっくり行われる。

ならば短期間でさっさと行って集中し、ととっと帰ってきても同じではないかと思いもするが、この一見無駄に思える温め時間に布を待つ、人を待つ、出会いを待つ、バスを待つ、待つ体勢と気持ちが整ってくる。

織られた時間、伝えられた時間に軸を合わせる。何かが来るのを、何かと出会うのを待つ時間。贅沢すぎる。

待つ時間にはいろいろ考えもする。ない頭をグルグルさせながらふと、良い織物とは「待つ」ことを待っていると云う感覚なしに行われた結果かも知れないと。

1年2年・・・5年10年、織り上がるまでに掛かる長い年月、それを意識せずに織りつづける。

中国 雲南省の馬関駅の前でカップルが待ち合わせ。スマートフォンがある今、待ち合わせにこない誰かをジリジリと心配しながら待つ事はなくなった。

彼女はデートのためのとびきりのオシャレをしている。ピンクのセーターの胸には大きく「LOVE」の文字。

刺繍風のプリントのプリーツスカート、機械刺繍で民族衣装を着た女性が描かれた前掛け、そして脚絆。

その姿から彼女がミャオ族の女性であることが解る。

民族衣装はすでに飛び越えて「エスニックスタイルファッション」と呼べそうな新しいジャンルの装い。

彼女は彼に言うだろう「もう待つなんて嫌」。