市場で出会った村人に「家に布があります」と声をかけられます。まだ10時前。村の名前に聞き覚えはあり、頭の中で地図がグルグル場所を検索します。
周りの人々は近い近いといいますが、夜中の3時、4時に村を出て定期市を楽しみに歩いて来る人々と、バスで移動する私とでは距離と時間の感覚に大きな違いがあります。「ひとまず歩いてみて昼までに到着しないようならば引き返そう」そう言い聞かせ、市場で買った檳榔樹の実を噛みながら山道を村に帰る人々と一緒に歩きます。
目的の村には1時間ちょっとで到着しました。市場から客を連れてきたので家の女はちょっと慌て気味、男に催促されて昼食の支度をはじめます。帰路のことを考えると長いはできないし、私のことで手間をかけさせたくないと思いもしますが、大切な布を見せてもらうのですから急がずに静かに彼らのやり方に従います。
奥から運ばれた布の端っこがチラッと見えた瞬間に出会いの喜びで満たされます。渡されて広げた布は手紡ぎ木綿で織られ、守宮のようなワニのような模様が藍染の絣で描かれていました。
譲り受けたすべての布の物語、oteshioに一緒に運んで行きます。次の出会いのために。
