TEXTILE DIVER 布を探しに

布につながるすべての感覚をひろげて 

腰衣の復元

手元で針を動かしている布は、ティモールのお婆ちゃんから譲り受けた伝統的なインサナ地方の女性用腰衣で、ボルドー色の地織りにシルバグレー、グリーン、イエロー、ワインの上品な配色で幾何学模様が織り込まれている。お祭りの晴着としてお婆ちゃんを美しく飾り、彼女の織りの腕前は村でも評判であったことだろう。

布はお婆ちゃんと一緒に年を取っていた。色は褪せ、裾は擦り切れ、三枚の布を一枚に縫い合わせ筒型のスカートに仕立てたその縫い目もところどころが解けていた。日本に持ち帰り、水洗いをしてアイロンを掛け、表裏、上下左右と布を眺める。”腰衣としての役目はすでに果たしたね”と布に問いかけ、筒状に仕立た布を解くことにした。全面に細かな模様の入った中央部分は状態も良く一枚で充分美しかった。そして解いた上と下の部分は時間をかけて修理をしなくてはならない。

展示会がはじまり中央部分だけを出展するとすぐに気に入ってくださった方がいて、本当は女性用の腰衣であったこと、状態が良くなかったので解いたこと・・・とその布の経緯をわたしはすべて説明した。するとその方は「可哀想」と呟かれた。「本当はこの布に仲間がいたんだね」。

民族の伝統染織布には必ずその用途とオリジナルの形がある。そしてそれが古くなったり破けたりして次の役割へと形を変えていく。たとえばティモールの小さな檳榔樹袋もはじめから袋として織ったものと明らかに古くなった布を利用して作ったと思われる袋がある。どちらも同じ檳榔樹袋には変わりないけれど、現地で出会った布の最初に織られた目的が何であったかを知ることは大切だ。オリジナルを知っているからこそ形を変えていてもその布のことが理解できる。

後日、仲間の二枚の布をお送りして三枚並べて見ていただいた。そしてまた本来の腰衣の形に復元することに話しは進んだ。一枚に縫い合わされていたはずの三枚の布はそれぞれ長さが違い縮縫ながら繋いで行く。針を動かしながら譲り受けたお婆ちゃんのこと、「可哀想」と言って下さった方の気持ち、そして安易解いた自分の行いを省みる。布はまた仲間と一緒になれて、わたしの手の中で嬉しそうにしている。またひとつ教えられた。