藍に染めた木綿に赤・黄色・緑・白の糸でびっしりと美しく刺繍されたヤオのパンツ。一段一段、変化する模様にはすべて意味があり、刺繡パンツは衣装の中で最も重要なアイテムとして時間をかけ丁寧に仕上げられます。
ところが近年では、藍の木綿ではなくてポリエステル素材に同じように手間をかけて刺繡したパンツを見かけます。これだけの技術と時間をかけるのになぜこんな安っぽい布に刺繍するのかしら、と思わずにはいられません。でもそれはこちらの勝手な考えで、刺繍した女性にとっては”新素材””しわにならない””洗濯が簡単””履き心地が柔らかい”・・などなどたくさんの魅力があり、その結果がどうなるのかは長く履いてみないと分からないのです。刺繍パンツが古くなって色褪せ解れたり破れたりしていてもまだ美しいと思えるのは藍と木綿だからです。ところがポリエスエル素材では耐久も弱く、古くなることで新しい輝きを放つ見込みはありません。そのことをすでに私たちは知っています。
そんなヤオ刺繡パンツの素材変化の現状を、刺繡される方にお話しすると「それだけの刺繍をポリエステルに刺すのは大変な技術ですね。刺繡は布の織目を目安にして文様を刺します。ポリエステルの織目を拾うのは難しく、その上に素材が伸びるので刺繡糸の引き加減も大変です」。その言葉に女性たちがどんな気持ちでポリエステルに刺繡するかを思い切なくなります。刺繍をしない私には想像もつかないことでした。
一つの時代の流れとして、ポリエステルのヤオ刺繍パンツをコレクションに加えなくては、どれだけすごい仕事なのかを残しておかなくてはなりません。