ティモ−ルでは鰐と人のお話しをよく耳にします。鰐は絣や紋織の模様にもなっていて、昔から彼らの慣習や文化と密接な関係をもつ動物です。これは2018年の1月にティモールで本当にあった鰐と人の出来事です。
1月のある夜、ティモールの北側ウィニーの浜辺で、2人のアロールの漁師が釣りをしていました。夜中の1時頃、漁師は釣れた魚を洗おうと、魚の尻尾を持って海水につけるといきなり鰐が顔を出し、魚と漁師を海に引きずりました。もう一人の漁師は反対の腕を掴んで助けようとしましたが、漁師と鰐は海の中に消えてしまいました。残った漁師はすぐにアロールにこのことを知らせました。怒った島の人々はただちに儀礼を行い、連れ去った漁師を返すように鰐に抗議しました。事件の起きた4日後、ウィニーの海に鰐の姿があり、頭の上には漁師を乗せて海岸に近づいてきます。漁師の遺体を浜辺に置いて、鰐は再び海へと帰って行きました。でも体には目立った外傷はなかったといいます。海岸に集まったたくさんの人々がこのようすを目撃しています。もしも民話や神話なら漁師は元気に戻ってきたかもしれません。
この夜、ウィニーの海岸では多くの漁師が釣りをしていたようで、話しを聴いて「どうして鰐はこの漁師を選んだのかしら」と純粋な疑問を口にすると「漁師は奥さんを捨てて、若い娘に入れ込んでいたんだよ」。鰐はそれを知っていたのです。
漁師の体を戻しに来た鰐を殺さなかったのも鰐と人の間で取り交わされた約束事です。もしそれを破ったなら、7代先まで鰐の怒りを買うことになります。
ティモールの砂浜ではどこでも見られる看板です。鰐の絵に添えられている言葉は「あなた自身を愛しなさい」