TEXTILE DIVER 布を探しに

布につながるすべての感覚をひろげて 

子供たちとのお絵描き

もう15年もまえ、2005年の7月にいくつかの村で12歳から15歳までの子供たち83人とお絵描きごっこをした。「ティモールの子供たちに」と彩色道具をもらったのがきっかけで、だったらみんなでお絵描きをしようとキラキラ閃く。ティモールの布に見られるユニークな模様がひよっとしたら絵の中から飛び出してくるかも知れない。そんなことを考え胸がときめいた。

10歳前後かと思っていた子供たちの年齢を聞いてちょっとびっくり。みんな実年齢よりも小さくそして幼い。
結果としては思惑は大きく外れて、子供たちは白い枚葉を前に、汚す不安と描く題材が見つからないままにしばらく固まっていた。
白い紙と彩色具を与えれば、子供は自由にのびのび絵を描き出すと疑いなく思い込んでいたのは間違いだと気付く。読み書き算盤中心の学校教育には、白い紙も色鉛筆も入り込む余裕は無い。字と計算を学ぶためのノートと鉛筆を用意するのでさえやっとのことなんだから。

布の模様は紙に描いては伝えない。母から娘へと布から布へと伝えられる。ティモールには紙漉の技術はないので、紙と布を結びつける文化の道はない。
そして本来文字を持たない民族に紙の必要性はない。

模様整理のために紙に模様を描いて描いて、写して写して、頭の中はぐるぐる。

次にティモールに行くときには、83枚の絵を携えよう。描いたときのように絵を持って15年後の姿と一緒に写真を撮ろう。絵にはサインが入っているから、みんなを探すのはとっても簡単。


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模様を描く

クパン、アマラシ、ファトレウ、アンフォアン、アマヌバン、アマナトゥン、モロ、ミオマフォ、インサナ、ビボキ、マラカ、タシフェト、これら12の地名はインドネシア領西ティモールの郡名で、かつての王国内の公国制に由来している。ティモールの多種多様な模様を調べるとき、この郡単位を元に分類するのが一番わかりやすく、模様は各地域の共同体の象徴として、今でも継承されている。

現地と展示会を行ったり来たりする日々、現地で布と情報を蒐集して帰国すれば、その蒐集した情報の整理も済まないままに、展示会の布の準備がはじまる。布を商い暮らすものとして、ティモールにまた行けるかどうかは、展示会の成功にかかっている。
そんな言い訳をしながら、やったりやらなかったりとさぼりにさぼりまくった模様の整理を集中してはじめる。同じ地域の同じような模様でも、布の数だけ模様は違う。小さな肩掛け、腰布、腰衣の模様を描いて描いて写して写して、手描き模様のデーターを集める。きっと何かが現れてくることを期待して。
島内での模様の類似と差異、そして島外との模様の類似と差異。
島の模様には、必ず元がある。

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ピカブウ Pika Buuf

この経紋織の模様はティモールのアトニ人の言葉で”ピカブウ(またはピカボウと聞こえることもある)呼ばれる。どんな意味があるのかと質問すると、お皿の裏のことだと答えが返ってくる。お皿の裏がどうして模様になったのかとしつこく尋ねても、昔からそう呼ばれているとそっけなく言われる。お皿の裏がどんな訳があって模様という地位を得たのだろう?今ではどこの家に行っても並んでいる食器は市場で買ったもので、ティモールの伝統的な器といえばココナツか木を削った皿。皿をひっくり返しては何か手掛かりがないかと首を捻る。
みんな疎ましがられても布を携えてしつこく尋ねて歩けば、どこにでも必ず物知りはいて(名誉のための作り話もある)、中国から運ばれた陶器の裏印が模様の元になったという所に辿り着いた。この裏印を追っかけると今度は窯元に辿り着くかも。ただし気を付けなくてはいけないのはオリジナルとは全く違った形になっている可能性もある。また名誉のための真実のために、裏印の裏付けをまだまだ探さなくてはいけない。
ひとつだけ確かなことは、島の模様にはいつでも元がある。


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うとうと銀座 6月2日〜12日は中止致します

今年も6月2日(火)から12日(土)に開催を予定していました「布族ぞくぞく、うとうとなんてしてられない」(杼の四)は中止致します。
インドネシア、ラオス、中国を歩き、一年かけてこの展示会のためにコツコツと布を貯めてきましたが、もうしばらく布貯金をしておきます。
心配ごとがいっぱいで、ひとつひとつのことを早くしっかり判断しないと、また次の心配ごとが押し寄せてきます。諦めて、ひとつすっきり、でも布は諦めませんよ。

いつもは陽に焼けて真っ黒な顔でお待ちしていますが、次回お会いするときには何十年かぶりの、真っ白な顔でお出迎えの予定です(只今おうちで美白中)。
大好きな皆さんと笑顔でお会いできることを心から願っています。
どうぞ安全にお過ごし下さい。

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展示会「白い」は延期しましたけど・・・

展示会開催の日のために、布を手にしてあれこれ考えます。
インドネシア・サヴ島の真ん中に赤い線の入った白い布は男性用儀礼腰布。薄い木綿に花の刺繍をあしらった”クバヤ”はインドネシア女性の正装用ブラウス。西ティモールの手紡ぎ木綿を腰機で織ったゴアゴアの白い布。そしてラオスの上等な絹で作った手縫いのマスクにおまけに使い道がすっかりなくなってしまった水泳用のゴーグル。
サヴの腰布を巻いてクバヤを羽織り、ゴアゴアの西テーモールの布を肩から掛け、ちょっと大きめのマスクをしてブルーがアクセントのゴーグルをする。うんうん、なかなか良い組み合わせ。

あれっ、でも展示会が開催できる時にはマスクもゴーグルもいらなくなっているはず・・・・。
もう一度、考え直す必要があります。
ひとりでも、どんなときでも、装うことは、とめられません。そう、布はとめられない。

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