TEXTILE DIVER 布を探しに

布につながるすべての感覚をひろげて 

「マレー諸島」 アルフレット・ラッセル・ウォレス

アルフレット・ラッセル・ウォレスの「マレー諸島」はわたしの布旅を支える大切な一冊です。

彼は今から150年ほど前にティモール島を含む南洋諸島を虫や動物の標本を作りながら旅しました。

その記録をまとめた「マレー諸島」は自然や動植物だけではなく、民族の人間性についての観察や比較の報告も多く、

現在ではインドネシアという国に治まり、急激に変わってゆく風景や人の生活のなかを旅するわたしに、

本当の姿を探り出す鍵を与えてくれます。

またウォレスから学ぶことは150年前のようすだけではなく、彼がこの時代に個人で歩き自前で調査したということです。



15世紀半ばから始まった大航海時代のほとんどは、王侯貴族をスポンサーにした海外進出でした。

ウォレスと同時代で同じイギリス人の博物学者ダーウィンの有名な「ピーグル号航海記」も、

海軍の観測船ピーグル号に調査隊として乗船した記録として書かれたものです。



ウォレスがどのように自前で旅したかというと、蒐めた標本をロンドンに送り売ることで生活を支えていたのです。

もちろん標本が売れたということは当時すでにロンドンに珍しい動植物の標本を取引するマーケットがあり、

それを買い求めるコレクターがいたからこそ成立したのです。



わたしの布旅も現地で布を探し日本に持ち帰ることで成り立っています。

それは布を見せてくれて売ってくれる人がいて、その布を見せて買って下さる人がいるからこそつづけられ、

布から得たお金だからこそまた布へ旅へと戻って行けるのです。

もちろんウォレスは優れた学者であり、時代背景を考えても今の旅を旅と呼ぶにはあまりにもお粗末です。

ウォレスの時代に生まれていたらわたしの布旅など夢に見ることさえなく、今だからできる旅を模索するのです。



布を売ってくださる人と場所があり、布を買って下さる人と場所があり、

この2つのあいだと、2つの前と後ろの全部で5つ時間をひとつにして、それをどんどんひろげすべての人への感謝をお返しできるようにといつも思ってます。



ウォレスの博物学調査の旅では土地の人々との関り方もとても親密で、それは彼が学者としてだけではなく優れた旅人であったからこそ築けたのでしょう。













マレー諸島

アルフレット・ラッセル・ウォレス

宮田 彬 訳

思索社