TEXTILE DIVER 布を探しに

布につながるすべての感覚をひろげて 

記憶~クスコのセニョール~

ラパスからコパカバーナを経由してクスコに戻る。あとはリマから日本に帰るのを待つばかりとなった日、いつものように朝食を食べにサンペドロ駅に近い中央市場に向う。

朝の透き通った時間は、日中よりも空気が薄く感じる。胸いっぱいに大きく呼吸をしゆっくりと坂を下ってゆく。宿からは20分の道のり。

アルマス広場を越えてた交差点で信号が変わるのを待っていると、向こう側に見覚えのある顔がある。向こうもこちらに気づきニコニコしながら信号の変わるのをじれったそうにしている。

確かに知っている顔?でも誰だっだろう?考え込んでいるうちに信号が変わって、セニョールは子犬のように横断歩道を駆けだして飛びついてきた。

=マナ、元気だった=ゲンキ=いつクスコに戻ったの=フツカマエ=ボリビアはどうだった=ヨカッタヨ=いつ日本に帰るの=アサッテ=今度はいつクスコに来るの=ライネン=

短い単語で応答しながら、わたしの頭の中はクスコの記憶の引き出しを引っ掻き回し、目の前にいる、古代アンデスの人型土器のような真ん丸い体つきの60がらみのセニョールのことを思い出そうとハタハタしていた。

キヨスク、市場、食堂、タクシー、バスのなか・・・ダメダぜんぜん思い出せない。セニョールはわたしの名前も、ボリビアに行ったことも知っているのに。

まるで間違って部分的に削除してしまったデーターのように、記憶は消えている。

セニョール、あなたとはどこで会いましたっけ?今度クスコで会ったら聞いてみよう。