TEXTILE DIVER 布を探しに

布につながるすべての感覚をひろげて 

布を織る道具 腰機

トウモロコシの収穫を終えて、5月から11月の乾季には西ティモールのあちこちの村々で織りをする女性の姿が見られる。12月から4月までの雨季が畑仕事の季節なら乾季は織物の季節、乾いた大地の上、平石を積んだ円形の藁葺屋根の下、思い思いの場所に茣蓙を敷いて仕事をしている。
織物はたての糸とよこの糸の交差で組織される。西ティモールでこのために使われている織りの道具“腰機”は張ったたて糸の一方を織手の腰で引っ張り、もう一方を地面に打った杭や家の柱に固定する。その織機は見た目にもいたって単純で何本かの太さの違う木がたて糸のなかに組み込まれている。体に一番近い所にはたて糸を腰で保持するための手元棒、次に輪状綜絖の棒、そして開口を保持する中筒棒にたて糸を整える綾棒、最後に柱にたて糸を保持する先端棒、そのほかにはよこ糸を巻いた棒とよこ糸を打ち込む刀杼だけ。
たて糸の一方は腰で支えるので織手自身も織機の一部となる。彼女たちがたて糸を支えるための腰帯を背中ら外せば、張力を失ったたて糸はふらふらと心細げに、そのたて糸としての役割を手放さなくてはならない。先端棒にクルクルとほかの中筒棒や綾棒と一緒に巻かれれば収納場所も取らず、どこにでも簡単に持ち運べる。
ティモールの織物は女性の家の仕事して母から娘へと継承されてきた。少女たちは母親の織りをするそばで遊びながら、また小さな兄弟の世話をしながら織りの技術を習得していく。母親は織りの仕事をしながらでも子供たちに何かあれば途中でもすぐに手を止めることができ、また織りの道具には子供たちにとって危険なものはない。
ティモールを歩き始めたころ、バナナのように曲がった布やヘビのようにクネクネと歪んだ布に時々出会いとても奇妙に感じていた。布とはまっすぐなものと思っていたので。
腰機は固定した杭や柱と織手の腰に回した腰帯でたて糸を張り、織手の体の動きでたて糸を張ったり緩めたりして糸の張力を調整しながらよこ糸を入れて打っていく。ティモールの腰機にはたて糸の歪みを避けるための仕掛けもなく、織手のからだの癖や力ぐあい、その日の体調や気分、織り上げられるまでに掛かる長い時間がすべて糸に伝わる。曲がっている布をどう思っているのかと尋ねても、どうしてそんなことを気にかけるのかと驚かれる。確かに壁に掛けるためではなくからだに纏う布なのだから、少々歪んでいるほうが巻き易いのかもしれない。それでもやっぱり上手い女性の織った布に歪みはない。
織りをする女性のそばに座り込んでその仕事を眺める。体を前傾させ、膝を曲げて、たて糸の張りを緩め綜絖を引き上げ刀杼を入れ、今度は体を立てて膝を伸ばし、たて糸をピーンと張って糸を打つ。またたて糸を緩めるための態勢になり今度はよこ糸を入れ刀杼を入れて態勢を戻して糸を打つ。体全身で行われる一連の動作の繰り返しが機になり織りになる。ドンドンドン、糸を打つ音は村に響きわたる。道具が奏でる音は心地よい。女性たちは悠々と織りをする。