TEXTILE DIVER 布を探しに

布につながるすべての感覚をひろげて 

修理のお話し

もう2週間も前の話しになってしまいますが、根津で「修復のお仕事」がありました。染織保存のYさんからご案内のメールをいただき行ってきました。「修復のお仕事」そうです、物を直すお仕事です。染織のほかにも油絵、建造物、紙本、陶磁器、東洋書家、立体作品・絵画作品・・・などなど、当然のことで歴史的に残るもの、残されたもの、いま私たちが見ることのできる物は、その物の存在、寿命を少しでも長く未来に繋ごうと想い努力をしてきた方々がいるからです。そうでなけれな人の作った物はスッと消えて無くなってしまいます。古いものは天然の材料を使っているので静かに自然に帰って行きます。


「繭は、蚕が育つまでの成長過程で、本来は蚕が育てばその役割を終えるはずの繭を絹糸に織物にして、何十年、何百年と残る物に人の手で生み出されるのです。もちろん蚕の命を犠牲にしています」とお話ししてくれました。考えると木綿も同じで、種を包む役割の綿を紡いで糸にし、放って置けば種は落ち新しい命を芽吹き、綿は自然に帰ります。この染織の素材となる物の本来の役割を思うと染織品の命の短さが理解できます。古い布を保存するためにもう少しもう少しとどんだけジタバタして来たことでしょうか。


各専門家のブースには「大切にしている道具」というコーナーがあり、Yさんにとっては”ハサミ”でした。物を作る、直すのに道具はとても大切です。それも専門家の大切にしている道具を知れるのですから興味深々です。私はちょっと冗談で「布にとっての天敵ハサミが大切な道具なんですね」。彼女は「敵にならないように扱わなければなりません」と、そして「針も敵なんですよ」。私も布を扱う人間です。東南アジア諸国から持ち帰った民族の布々の修理は日常の仕事で、布を繕う針は味方と考えていたので少し驚きました。「針もはさみと同じ金属で、針が布の糸目を割ってしまうと布を傷つけてしまいます。良い針は針先が丸くなっているのですよ」。


何百年と残り残された布には理由としてそんな配慮と技術があるのです。染織保存の専門家Yさんの、日々歴史的な布と対峙するなかで生まれる言葉には気付かされることがたくさんありました。このような方が布を守っているのです。


 


大切な方から、大切にしている布の修理依頼を受けました。嫁に出した布がただいま里帰りしています。糸の細さと滑らかさ、青の糸の発色の美しさ、素材はレーヨンです。織った女性はこの糸の質感と色に憧れ、最新のお洒落な帯とし着用していたのでしょう。でもどんなに手間暇をかけて織っても残念なことにレーヨン素材は弱くその寿命は短いです。自然の中では本来命を繋ぐ過程で生み出される繭や綿が、人の手によって歴史的な時間を生き延びることのできる布となることに想いが広がります。


 少しでも長く大切に使っていただけるようジタバタしてピンクの糸で繕います。同じ色の糸を探すのは不可能なのです。ならば・・・手の印として残します。彼女も布も、きっと喜んでくれるでしょう。


「保存のための修理と使うための修理は違うのです」Yさんはいつもそう言って、わたしの修理を励ましてくれます。