TEXTILE DIVER 布を探しに

布につながるすべての感覚をひろげて 

牡馬と男の扉と布

 驚くような彫刻の入った扉や梁をティモールの村で見つければ、後先のことなど考えずに欲望の制御は一気に外れます。布のようにはひょいと担いで帰れないから、いつ誰にどうやって運んでもらうのかを考えなくてはならないのに。帰国までの時間があるときならば色々段取りも整うのだけど、山から下りて、すぐに島を出なくてはならない場合には、お金だけ払って預かってもらうことになります。「次に来た時に運んでね」。どちらにしても急いで日本に持って帰って、すぐ展示会でご紹介できるものでもなく、しばらくはたっぷり眺めていたいもの。また村に自分の扉を預けておくことは、必ずここに戻ってくるといティモールとわたしの約束のようなものなのです。

この馬に人が跨った彫刻を見た瞬間、これは絶対私が持っていなくてはと思いました。なぜかというと、同じよに馬に人が跨った経絣模様の布を持っていたからです。

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それがこの布です。品番を見るとNo.962 、いまから16年前の2005年1月にティモールへ行ったときに出合った布です。両手を挙げて馬に跨り、跨った脚は馬の腹から突き出ているように表現されています。周辺には鳥や星や幾何学模様が配置され、上下の段には手足の長いワニが横たわっています。
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扉の模様は一つ一つを直に木に彫っていきます。これは男の仕事です。
布の模様を見ると左右の模様が鏡面反転になっています。これはこの模様が経絣の技法で織られているためで、反転した二つの模様は経糸に同時に括られ、整経する際に模様を開いて整え、腰機に掛け、緯糸を入れて織りあげます。そして織物はすべて女性の仕事です。
独特な模様ですが構成はパターンによるもので、一緒に括っているはずの模様の形が微妙に違うのも魅力です。腰機での経糸の張り加減や、緯糸の打ち込み具合によって変わってしまったのでしょう。
 
ここで問題は、この馬に人が跨った模様は扉と布のどちらがはじまりだったかです。
バス、トラック、バイクが主要な交通機関になってしまったいまでは、馬を見かけることはなくなりました。それ以前は馬は貴重な乗物で、ものを運ぶための大切な手段もありました。
その馬を男が最初に彫ったのか?それとも女が布に括ったのか?この扉に出合わなければこんな問題を抱えることにはなかったのですが。

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