TEXTILE DIVER 布を探しに

布につながるすべての感覚をひろげて 

「髪」

身体のなかで一番好きなところはどこ?と訊かれたら迷わず「髪」と答える。全身のパーツをいくら確認してみてもほかに思いつくところもないので。

好きだといっても特別な手入れをしているわけもなく、まあまあ元気に伸びてくれて、朝夕のブラッシングと気が向いたときに毛先を摘まんで2,3センチほどカットする。

ほったらかしで、腰の下のお尻に届くほど長いときもあり、「わたしの髪はどこまで伸びるのかな」と試してみたい気持ちもある。

「長いと手間がかかるでしょ」ともよくいわれたけれど(いま訊かれることはまずない、スタイルの確立か)、数十年伸ばしっぱなしですでに身体の一部になっているので、逆になくなったことを考えると恐ろしくなる・・・いつかは失ってしまうのかも知れないけど、その時は潔く頭を丸めてしまおう・・・なんて結構本気。

身体のなかで髪だけが巻いたり切ったり染めたりと簡単に加工できるのも考えてみると興味深く、本人の意思とは関係なく勝手に伸びたり抜けたりするのは神秘に近い。

近頃ではかなり白いものも目立ちはじめ、それでも黒くて硬くて太くて多い髪質はあれこれカタチを変えるほうがよっぽど大変で、

髪はいつも結わえている。



布旅をして歩く国々の、今でも布を織ったり、刺したり、纏ったりして、布が日常の暮らしのなかにある民族の女性たちは長い髪をさまざまに飾っている。

“布”と“長い髪”は民族文化の根っこのところで見えない糸で結ばれているようで・・・見えない糸?糸と髪という長くて細くて、物質的に同じ特長を持っていることにも充分注意を払わなくては・・・。



ペルー・ボリビアではまん丸なふくよかな体の背後に2本の三つ編みが下がる。

紐を編み込んだり、大きなボンボンを提げたりして飾られた髪は、帽子を愛用し、カラフルなマンタで荷物を背負う彼女たちのスタイルによく似合う。

だからペルー・ボリビアを布旅するときはわたしも三つ編みにしている。

市場で、道端で、村で・・・自分たちとは明らかに違うはずの外来者が、自分たちのしるしであるはずの“三つ編みしるし”を体に持っていることに同士?の匂いを嗅ぎ付けてくれるようで、

2本に編んだわたしの長い髪にそっと触れ、微笑んでくれる、髪のコミニケーション・・・。



インドネシアでは頭の後ろで髪を丸めて櫛を挿す。

中国では大きな花を髪に飾ろう、

ベトナムサパのザオの剃り込みスタイルはとっても真似できないけど・・・。



布とつながるためのしるしを一つひとつ掬い集め、テキスタイルダイバーは今日も、独り、沈んでゆく。





ペルー/カルカ

中国/西江

ベトナム/サパ